一般的なエンコーダー出力信号の比較

一般的なエンコーダー出力信号の比較

Jason Kelly/著

モーションコントロールアプリケーション向けにエンコーダーを選ぶときは、いくつかの選択肢から決める必要があります。エンジニアがセンサーを指定する場合は、自分のアプリケーションが、インクリメンタル・エンコーダーアブソリュート・エンコーダー、あるいはコミュテーション・エンコーダーが必要かを決定しなければなりません。どのタイプのエンコーダーが必要かを特定した後は、以下のようなその他の各種パラメータを考慮する必要があります:分解能、取付けパターン、モーターシャフトのサイズなど。さらに、時に見落とされがちなのは、必要とされるエンコーダー出力信号のタイプです。この答えはいつも明確というわけではありませんので、本記事ではどのようなエンコーダーでも見られる、3つの主な出力タイプを見ていきます:オープンコレクタ、プッシュプル、および差動ラインドライバ。これら3つの出力タイプは、デジタル通信の物理層を表します。

インクリメント・エンコーダーの直行ライン出力、コミュテーション・エンコーダーのモーターポール出力、あるいは特定のプロトコルを使用するシリアルインターフェースに関わらず、これらの信号はすべてデジタル信号でHighとLow状態を持っています。つまり、5 Vのエンコーダーの場合、信号は常に、Lowまたはバイナリ0である0 V(接地)と、Highまたはバイナリ1である5 Vの間を切り替えます。本記事では、基本的な矩形波を提供するインクリメント・エンコーダー出力に注目します。

典型的な5 Vデジタル矩形波
典型的な5 Vデジタル矩形波の図

オープン・コレクタ出力

販売されているほとんどの回転エンコーダーには、オープン・コレクタ出力が備わっています。これはつまり、デジタル信号の出力はLowから接地へと駆動でき、信号がHighになると想定される場合、その出力はただ切断されます。入力信号がHighになる時、トランジスタ上のコレクタピンは開いたまま、あるいは切断されることから、この出力はオープン・コレクタと呼ばれます。

オープン・コレクタエンコーダーで使用される、バイポーラ接合トランジスタ
オープン・コレクタエンコーダーで使用される、バイポーラ接合トランジスタの図

このデバイスとインターフェース接続するには、目的の高電圧レベルへとコレクタを「プルアップ」するための外部抵抗器が必要です。エンジニアが異なる電圧レベルを持つシステムとインターフェース接続しようとする場合は、この出力は非常に便利です。このコレクタは、エンコーダーが動作する電圧よりも低い、または高い電圧レベルに合わせるためにプルアップされることができます。

オープン・コレクタエンコーダーへと外部的に追加されたプルアップ抵抗器
オープン・コレクタエンコーダーへと外部的に追加されたプルアップ抵抗器の図

しかし、このインターフェースの欠点は、エンコーダの電圧レベルの変更能力をしばしば上回ることがあることです。オープン・コレクタエンコーダーに外部抵抗器を追加することはそれほど難しい事ではなく、在庫販売されている多くのコントローラーは既にこれを内蔵しています。しかし、これらの外部抵抗器は動作するために電流を消費し、出力信号に影響を及ぼし、周波数の特性が変わります。インクリメント・エンコーダーの矩形波を再度考慮してください。ここでは、その状態変化の1つを特に拡大して見てみます。私たちはデジタル信号がLowからHighへと瞬時に移行するものと考えたいところですが、もちろん何をするにも時間がかかるということは心得ています。この時間の遅延のことをスルーレートと言います。

より低いスルーレートを持つ矩形波の詳細図
より低いスルーレートを持つ矩形波の詳細図

オープン・コレクタ出力の場合、抵抗器はRCタイミング回路でRとして動作するため、スルーレートはプルアップ抵抗器の抵抗により影響されます。スルーレートがより低いということは、エンコーダーの駆動速度を低減させる(インクリメント・エンコーダーの場合は分解能の低下なども)ということを意味します。スルーレートは、抵抗器の値をより低くする(より強いプルアップ)ことで改善できますが、プルアップ抵抗器は信号が低い場合より多くの電流を使用しなければならないため、トレードオフとしてシステムの消費電力が増します。

プッシュ・プル出力

オープン・コレクタインターフェースの欠点に対する最善の答えは、プッシュ・プル構成です。プッシュ・プルでは、1つだけではなく2つのトランジスタが使用されます。下部トランジスタはオープン・コレクタ構成にあるトランジスタと同様に機能しますが、上部トランジスタは有効なプルアップとして機能します。プッシュ・プル構成では、シグナルラインに調整した抵抗器で達成可能なスルーレートよりも早いスルーレートを持つ、高速デジタルトランジションが可能です。電力を消費して動作する抵抗器がなければ、この出力タイプでも電力消費はより低くなります。これにより、プッシュ・プル出力は、電力が貴重となるバッテリー駆動のアプリケーションに対してさらにより良い選択肢となります。

プッシュ・プルトランジスタの構成
プッシュ・プルトランジスタの構成の図

CUI DevicesのシングルエンドAMTエンコーダーはすべて、プッシュ・プル出力タイプを使用しています。AMTエンコーダーモジュールの出力へのインターフェース接続には、外部プルアップは必要ありません。そのためテストとプロトタイピングがより簡単に行え、起動と動作に必要な電源は少なくてすみます。AMTエンコーダーの出力は、データシート上のCMOSとして参照されますので注意してください。これは、インターフェースするデバイスがプッシュ・プル出力から見る高電圧および低電圧レベルの解釈方法を簡単に示します。この値が高い、低いというのはデバイスの間で異なるため、目的の製品のデータシートに関しては相談されることをお勧めします。

差動ライン・ドライバ出力

プッシュ・プルエンコーダーは、オープン・コレクタの従来製品と比べると性能面は強化されていますが、これはシングルエンド出力のため、必ずしもすべてのプロジェクトに適切なオプションにはなりません。長いケーブル距離が必要なアプリケーションや、使用するケーブルが多量の電気的ノイズや干渉が問題となる場合は、差動ライン・ドライバ出力を持つエンコーダーがベストな選択です。差動出力は、プッシュ・プル出力と同じトランジスタ構成で生成されますが、信号は1つではなく、2つの信号が生成されます。この信号は差動ペアと呼ばれます。1つの信号はオリジナル信号と合致し、他方はオリジナル信号と全く逆になります。このことから、これは時にコンプリメンタリー信号と呼ばれます。

シングルエンド出力では、レシーバーは常に共通の接地に対して送信された信号を参照します。しかし、電圧が落ちたりスルーレートが減少する傾向にある長距離ケーブルでは、信号エラーがしばしば発生します。差動アプリケーションでは、ホストがオリジナルのシングルエンド信号を生成します。その後、これは差動トランスミッターへと行きます。このトランスミッターは、差動ペアを生成してケーブル配線に送信します。2つの信号を発生することで、レシーバーはもはや接地に対して電圧レベルを参照せず、代わりにその信号を互いに参照します。これはつまり、レシーバーは特定の電圧レベルではなく、2つの信号の間の差異を常に見ていることになります。差動レシーバーは、このように信号のペアを1つのシングルエンド信号へと戻して再構成します。この信号は、ホストが要求する適切な論理レベルを使用したホストデバイスによって阻害される可能性もあります。このタイプのインターフェースでは、異なる電圧レベルのデバイスを、差動トランシーバー間で通信する方法で互いに動作することも可能です。すべてが共に動作することで、長いケーブル長に渡るシングルエンドアプリケーションで発生する信号の劣化を克服します。

差動ドライバで駆動し、レシーバにより再構成されたエンコーダー出力
差動ライン・ドライバの波形処理を示した図

しかしながら、信号の劣化は長いケーブル長で発生する唯一の問題ではありません。システム内のケーブルが長ければ長いほど、電気ノイズと干渉がケーブルへ、そして最終的には電気システムへとかかる可能性が高くなります。ノイズがケーブルと結合すると、様々な大きさの電圧として現れます。シングルエンド出力エンコーダーを持つシステムでは、これがシステムの受信側が誤った高論理値と低論理値を読み取ってしまい、誤った位置データへと導いてしまう原因にもなり得ます。これは非常に大きな問題です!幸い、差動ライン・ドライバのインターフェースは、このノイズに対処するための十分な装備が施されています。CUI Devicesは通常、ケーブル長が1メートルを超える場合は差動ライン・ドライバーを使用することをお勧めしています。

差動ライン・ドライバを使用する際は、ツイストケア配線が必要です。ツイストペア配線は、所定の距離に渡り指定された回旋数で絡み合ったA信号とA-信号で構成されています。このタイプのケーブルでは、1つの信号ワイヤで発生するノイズはワイヤのペアに等しく印加されます。電圧スパイクが信号Aで発生した場合、それは信号A-にも等しく印加されます。差動レシーバーは互いに信号を差し引いて信号を再構築するので、両方のワイヤに等しく示されたノイズは無視されます。この信号線両方で同じ電圧を無視できるというレシーバーの機能は、同相信号除去比と呼ばれます。このノイズ除去能力により、差動ラインドライバのインターフェースは産業および自動車アプリケーションではよく使用されています。

差動レシーバーは、両方の信号に共通のものすべてを無視します。
差動レシーバーが両信号に共通のノイズを無視していることを示す例の図

差動エンコーダー出力タイプとその利点と欠点を理解することで、エンジニアは自分のアプリケーションに対して最適な出力をより良く選択することができます。CUI DevicesのAMTエンコーダーは、どれも低消費電力であるプッシュ・プル出力を提供し、設置も簡単です。差動ラインドライバオプションは、要求の厳しいアプリケーション向けの多くのモデルでもご利用いただけます。

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Jason Kelly

Jason Kelly

モーションコントロール設計とアプリケーションエンジニア

CUI DevicesのAMTエンコーダーとモーションコントロール製品の設計エンジニアとして、Jason Kellyはサポートアクセサリやソフトウェアインターフェイス、顧客ツールの作成を含む、広範囲の新しいエンコーダーデザインに取り組んでいます。彼は工学設計とその実践を指揮することを重視しており、このことはCUI Devicesの革新的なAMTエンコーダーに明確に表れているだけでなく、彼の現場での顧客サポートにも表れています。彼がラボで設計していないときは、自宅を改造したりトラックの修理をしたり、また彼の妻や家族と一緒に米国北東部の人に知られていない大自然を探索したりして過ごします。